「映画館が無理ならネットで無料配信!中国新作映画の決断」

――新型コロナウィルスによる肺炎のニュースが、中国そして日本でも連日のように流れています。今回はこの新型肺炎の蔓延が、ちょうど中国の春節(旧正月、今年は1月25日)と重なったことも事態を複雑にしました。映画館が閉鎖され、中国で春節連休に公開予定だった数多くの新作映画も大打撃を受けました。そんななか、ある映画は思い切った決断をしたようです。

(南方都市報の一部を翻訳〔今回は少し意訳強めです〕)

もともと春節(1月25日)に公開予定だった映画『Lost in Russia(中国語タイトル:囧妈)』は、新型肺炎の蔓延により、他の映画と同じように公開の延期を決めた。

しかし、中国人が今年の春節は新作映画が見られないのかと思いかけた時、関連企業の協議の結果、『Lost in Russia』は1月25日0時からネット上で正式に、無料で公開されることになった。これは史上初の試みと言える。

結果的に、この試みは各所に利益をもたらした。大晦日(1月24日)に前倒し公開することを突然決定し、関係者や世論の怒りを買っていた『Lost in Russia』の主演・監督である除錚は、一気に名誉挽回し、SNSでは「これで除錚に映画チケット1枚分の借りができた」という声が上がった。

しかし、『Lost in Russia』をこのような形で人々に提供した最大の「功臣」は、6.3億元(約100億円)で放映権を買ったスポンサー企業だ。もちろん、この巨大な投資に対する見返りも相当なものだった。このニュースが出てから、ものの数時間で当該企業による12個のアプリはみな、ダウンロードランキングのトップを独占した。

スポンサーの経営手腕、そして多くの中国人の熱狂的な支持により、今回の試みは各方面に確実な儲けをもたらした。この映画を製作した企業の株も、同日19%増加した。

長い目で見れば、今回の『Lost in Russia』のネット無料公開は将来につながる試みとなろう。従来、映画を見る際にはネットでチケットを買い、映画館に実際に行って見ていた。しかし今回のケースが発展すれば、ネット上で料金を払い、ネット上で初めて公開される映画を鑑賞するということもあるかもしれない。これを契機に、巨額の製作費・精鋭の製作チーム・俳優たちがオールスターで出演するような大作映画がネット公開される時代が、本格的に幕を開けるかもしれない。

もし今回のような新型肺炎の蔓延がなかったら、映画館との衝突・利益構造・権利関係等の要因により、このように新しい形態で映画が公開されることはなかっただろう。かつてSARSの蔓延によりネットショッピングが一気に普及したのと同じように、今回も何か変わるかもしれない。

これまであったような、映画館で映画を見るという特別感が、これからはそこまで求められなくなるかもしれない。もし人々が、これまでは映画館で見てきたような大作映画をネット上で見るようになったら、映画館を中心とする商業形態が受けるダメージは少なくないだろう。

もともと、映画館で映画を見るという行為は都市生活に欠かせない娯楽であり、長い時間をかけて培われてきたものだ。劇場公開されている映画はネット上でも議論の的であり、もちろん現実世界でも映画を見に行くことは主要な社交手段の一つとなっている。中国のあらゆる層が消費を牽引する形で、中国の映画市場は右肩上がりの成長を続けている。

しかし、『Lost in Russia』がネット上で公開され、春節期間中にそれが持つ話題性が強められ、知らず知らずのうちに人々の中には一つの意識が芽生えているのではないか。映画館に行って映画を見なくても、みんなの話題の輪の中に入れるし、SNSなどが作り出す世論の中に参加できるじゃないか、というものである。これは年月をかけて形成されてきた消費習慣を揺るがす出来事である。

もちろん、主流の消費形式として、ウィルスの蔓延が完全に落ち着いたあと、人々は習慣に基づいて再び映画館へ行くようになり、映画の興行収入なども元に戻るだろう。しかし全てが元通りにはならないかもしれない。

『Lost in Russia』がネット上で無料公開されたことで不利益を被ったという声も、映画または映画館業界から上がっている。浙江省の映画業界は「これは信頼を失う行為で、全国の映画館に重大な損失をもたらすだろう」という声明をだした。これから、損失の埋め合わせをするかどうか関係各所による話し合いが必要となる。

このたびはウィルスの蔓延という第三者的事情が、映画の商業形態に変革をもたらした。外を自由に出歩けない人々の、抑圧された娯楽へのニーズは計り知れないほど巨大である。『Lost in Russia』の一作品だけでは到底満足させられない。この機を逃せば、春節映画の興行成績も振るわないままだろう。新しいチャンスが目の前にあるのだから、他の春節映画も能動的に活路を探すべきではないだろうか。